(6)喫煙と脳卒中
 過去のわが国のコホート研究では、喫煙が脳卒中発症の危険因子ではなかった。高血圧の影響が強かったことがその一因と考えられている。高血圧治療の確立によって、その影響が是正されて(60歳男性の収縮期血圧は1965年から1990年で約15mmHg低下)脳出血が減少し、脂質異常症も増加して、喫煙が危険因子として、欧米と同様に浮上してきた。新発田市の研究、NIPPONDATA80(文献19)、JPHC study(文献20)では喫煙が脳内出血以外の脳卒中リスクを上げることが明らかにされている(図表8)。JPHC studyから計算すると男性17%、女性5%の脳卒中がタバコを吸っていなければ予防できたと推定され、これを日本全体の脳卒中に当てはめると、1年間で1万5000人(男性1万1000人、女性4000人)の脳卒中死亡、16万人の脳卒中患者(男性12万人、女性4万人)が防げることになる。


(7)喫煙と糖尿病
 喫煙は2型糖尿病の発症リスクを高めることが日本人男性を対象とした前向きコホート調査(Osaka Health Survey)により報告されている(文献21)(図表9)。35〜60歳の男性で登録時に糖尿病、空腹時高血糖(IFG)および高血圧がなかった6,250例を対象として4〜16年間にわたり追跡し、追跡期間中450例が2型糖尿病と診断されている。非喫煙者に比べて喫煙者における2型糖尿病の発症リスクは1.47倍であり、また、喫煙状況と2型糖尿病の発症リスクには量反応関係が認められた。また、能動喫煙と2型糖尿病発症率の関連を評価した研究の系統的レビューとメタ解析の結果によると、日本の4研究(前述の研究を含む)を含む25の前向きコホート研究で、24件が1.0を超える補正相対リスクを示し、統合した補正相対リスクは1.44(95%信頼区間1.31−1.58)で一貫した結果が得られている(文献22)。




引用文献
19) Ueshima H, Choudhury SR, Okayama A, et al. Cigarette smoking as a risk factor for stroke death in Japan: NIPPON DATA80 Stroke 2004; 35(8): 1836-41
20) Mannami T, Iso H, Baba S, et al. Cigarette smoking and risk of stroke and its subtypes among middle-aged Japanese men and women: the JPHC Study Cohort I. Stroke 2004; 35(6): 1248-53
21) Uchimoto S, Tsumura K, Hayashi T, et al. Impact of cigarette smoking on the incidence of Type 2 diabetes mellitus in middle-aged Japanese men: the Osaka Health Survey. Diabet Med. 1999; 16(11): 951-5
22) Willi C, Bodenmann P, Ghali WA, et al. Active smoking and the risk of type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis. JAMA. 2007;298(22):2654-64

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