1)喫煙と肺がん
 喫煙は肺がんのリスクを確実に高め、また小細胞がんや扁平上皮がんだけでなく腺がんを含めすべての組織型の肺がんリスクを高める。日本人における喫煙と肺がんに関して行われたメタアナリシス(文献6)では、喫煙者の非喫煙者に対する相対リスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍であった。また、肺がんの組織型別では扁平上皮がんの相対リスクが男性11.7倍、女性11.3倍、腺がんが男性2.3倍、女性1.4倍であった。


2)喫煙と肝がん
 肝がんの主な原因として、肝炎ウイルスの持続感染と飲酒習慣が知られている。日本には肝がんが多く、そのほとんどはB型またはC型肝炎ウイルス持続感染者の肝細胞がんである。2004年の国際がん研究機構(IARC)の評価で、喫煙は肝がんに対してグループ1(ヒトに対する発がん性の十分なエビデンスあり)として位置付けられた。2005年までに報告された日本人を対象とした疫学研究結果をまとめて評価した結果、日本では喫煙によって肝がんリスクが高くなるのはほぼ確実という結論になっている(文献7)。


3)喫煙と乳がん
 タバコの煙には数多くの発がん物質が含まれ、動物実験では乳がんの原因であり、また、ヒトでもタバコを吸うと代謝物が乳房組織に形成されることが確認されている。2005年までに報告された日本人を対象とした乳がんリスクについての疫学研究には、3つのコホート研究と8つの症例対照研究があり、それらを検討した結果、喫煙によって乳がんリスクが高くなる可能性があるという結論が発表されている。さらに、そのうちの1つのコホート研究と複数の症例対照研究で、タバコによってヒトの乳がんリスクが上がるという結果が得られていることから、日本人女性では喫煙による乳がんリスク上昇の可能性があると結論づけられている(文献8)。

(4)喫煙と呼吸器疾患
 喫煙は呼吸器系の形態的・機能的変化をきたし、呼吸器の様々な疾患や症状を引き起こす。喫煙者は非喫煙者に比べて、咳、痰、喘鳴、息切れなどの自覚症状が多いことは、日常診療でよく経験する。喫煙により肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、自然気胸、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害、呼吸器感染症、急性好酸球性肺炎などの呼吸器疾患のリスクが高まることが明らかにされている。
 喫煙者の呼吸機能の低下に関して、わが国においても横断的かつ縦断的な研究が報告されている(文献9)。35〜74歳の呼吸器疾患の診断を受けていない日本人男性健診受診者11,875名の喫煙習慣別、年齢別の呼吸機能の比較では、1秒量は喫煙者で非喫煙者より有意に低く、若年者では非喫煙者と喫煙者の差は少ないが、加齢につれて差が増大した(図表5、6)。また、禁煙の効果は12ヵ月以内の禁煙で現れていた。同研究で1,888人の1秒量の5年間変化に関する縦断的研究が行われているが、45歳以上では喫煙者は非喫煙者に比較して1秒量の低下量が有意に大きく、禁煙者は喫煙者に比べ、1秒量の低下量は少なかったと報告されている。


引用文献

6) Wakai K, Inoue M, Mizoue T, et al. Tobacco smoking and lung cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2006; 36:309-24.
7) Tanaka K, Tsuji I, Wakai K, et al. Cigarette Smoking and Liver Cancer Risk: An Evaluation Based on a Systematic Review of Epidemiologic Evidence Among Japanese. Jpn J Clin Oncol. 2006; 36(7): 445-56.
8) Nagata C, Mizoue T, Tanaka K, et al. Tobacco Smoking and Breast Cancer Risk: An Evaluation Based on a Systematic Review of Epidemiological Evidence among the Japanese Population. Jpn J Clin Oncol. 2006; 36:387-94.
9)Omori H, Nonami Y, Morimoto Y. Effect of smoking on FEV1 decline in a cross-sectional and longitudinal study of a large cohort of Japanese males. Respirology. 2005; 10: 464-469


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