4.加熱式たばこの有害性と使用者への対応
 新型たばことして、大きく2 種類の製品が国際的に流行している。一つは、ニコチンを含んだ溶液を加熱吸引する電子たばこ(electronic cigarette、e-cigaretteまたはvape とも呼ばれる)である。もう一つが、たばこの葉を加熱して吸引する加熱式たばこ(heated tobacco products)である(図表19,20)。
 ニコチンを含んだ電子たばこは、英米等の諸外国で流行している。わが国においては、2010年に旧薬事法(現在の医薬品医療機器等法)により、医薬品ならびに医療機器としての承認を得ずにニコチンを含んだ電子たばこを発売することが禁止された。そのため、公には販売されておらず、個人輸入により入手されたものが使用されている。なお、ニコチンを含まない電子たばこは消費生活用品として販売されている。
 一方、加熱式たばこは国際的にみるとわが国で流行が顕著である。その使用実態、有害性、依存性、たばこ政策への影響、規制にむけた提言で構成される総説論文(文献45)における、有害性と依存性に関する結論は以下のとおりである。加熱式たばこは、紙巻たばこに比べるとニコチン以外の主要な有害物質の曝露量を減らせる可能性がある。しかし、病気のリスクがどの程度減るかについては明らかでない。紙巻たばこを併用した場合に有害物質の曝露の低減が期待できない可能性が高い。ニコチンの曝露量ならびに吸収動態は紙巻たばこと類似しており、紙巻たばこを加熱式たばこに完全に置き換えることができたとしても、ニコチン依存症が継続するという問題がある。また、電子たばこでみられる禁煙効果を示す研究報告はなく、完全禁煙(すべてのたばこ製品の中止)を阻害する可能性が考えられ、ハームリダクションの可能性は現在のところ否定的である。




 2020年の診療報酬の改定において、加熱式たばこ使用者も健康保険による禁煙治療の対象として正式に認められた(文献46)。加熱式たばこ使用者には、紙巻たばこを吸わずに単独で使用している場合であっても、それをゴールとするのではなく、最終的には加熱式たばこの使用も中止するよう、情報提供や支援を行う必要がある(文献47)。その際、加熱式たばこを使用することになった思いを受けとめたうえで、情報提供を行うことが大切である。具体的には、上述の加熱式たばこ使用者の心理に配慮して、加熱式たばこに切り替えた理由や切り替えて感じていることなどを聞き出して、喫煙者の気持ちを受容しながら、たばこ製品の完全使用中止にむけて話し合うことが大切である。


引用文献
45)中村正和, 田淵貴大, 尾崎米厚, 他: 加熱式たばこ製品の使用実態、健康影響、たばこ規制への影響とそれを踏まえた政策提言. 日本公衆衛生雑誌, 67(1): 3-14, 2020.
46)日本循環器学会, 日本肺癌学会, 日本癌学会,日本呼吸器学会: 禁煙治療のための標準手順書 第7版; 2020.(各学会のホームページで公開)
47)厚生労働省: 禁煙支援マニュアル(第二版)増補改訂版, 2018.


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