4.ニコチン依存症の分類と診断

 ニコチン依存症は、「精神障害の診断と統計の手引き」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第4版(DSM-IV)や「国際疾病分類」(International Classification of Diseases)第10版(ICD-10)において、薬物(物質)に対する依存症候群に分類されている(文献11〜14)。診断項目には、自己制御困難(薬物の使用の開始や終了、あるいは量を自分でコントロールできない状態)、離脱(離脱症状)、耐性、薬物使用中心の生活(薬物を摂取するため、または薬物の作用から回復するために多大の時間を費やすこと)、精神的・身体的意味での有害な使用(精神的・身体的に有害であるとわかっているにもかかわらず使用を継続する状態)のほか、ICD-10では渇望(薬物を摂取したいという強い欲求)、DSM-IVでは依存の自覚(使用を減らしたり、コントロールしようとする持続的な欲求)がある(文献14)。その後発表されたDSM-5においても同様である(文献12)。



それぞれの診断項目の概略を図表10,11に示す。DSM-IVでは、診断項目のうち3項目(またはそれ以上)が、同じ12ヵ月の期間内のどこかでみられることによって診断される(文献11,14)。



 ICD-10では通常過去1年間のある期間、診断項目のうち3項目以上が経験されるか出現した場合とされている(文献13,14)。



 このように、ニコチン依存症は国際的に用いられている疾病分類や診断の手引きにおいて診断基準が示されている。しかし、わが国における禁煙治療の臨床現場においては、次に述べるスクリーニングテストを用いてニコチン依存度の診断とその程度の判定を行っている。

(注)DSM-IVは2013年に改訂され、DSM-5(文献12)が現在使われている。DSM-Wでの「ニコチン依存」はDSM-5では「たばこ使用障害」に名称が変更されている。
 たばこ使用障害の診断基準は11項目(1:意図より多く使用、2:使用制御困難、3:時間の消費、4:渇望、5:役割への障害、6:対人的問題、7:社会的・娯楽的活動の制限、8:危険な状況でも喫煙、9:有害影響の軽視、10:耐性、11:離脱)中の2項目が12ヵ月以内に起こることである。DSM-5では、臨床的な治療必要性を重視して、物質依存(DSM-W)より広い範囲の使用者に該当する物質使用障害が定義された。

引用文献
11)高橋三郎, 大野裕, 染谷俊幸: DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引き 新訂版.医学書院, 2007.
12)American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition. 2013.
13)中根充文, 岡崎祐士, 藤原妙子: ICD-10精神及び行動の障害 DCR研究用診断基準.医学書院, 2005.
14)和田清: 依存性薬物と乱用・依存・中毒,星和書店, 2000.


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