3.ニコチン依存のメカニズムとその特徴

 ニコチン依存は、身体的要因(生物学的要因)、心理的要因、行動的要因、社会的要因が相互に影響して形成されると考えられているが、依存症形成の中核をなす要因はニコチンの脳への作用である。本項では、ニコチン依存のメカニズムと、ニコチンの離脱症状、ニコチンの使用継続に伴う耐性の獲得について解説する。

(1)ニコチン依存のメカニズム

 喫煙によって体内に取り入れられたニコチンは、血液によって運ばれ、中脳腹側被蓋野から側坐核にいたる脳内報酬回路(文献7〜9)に作用する。


 ニコチンは腹側被蓋野にあるニコチン受容体(α4β2ニコチン作動性アセチルコリン受容体)に結合し、腹側被蓋野から側坐核への神経終末においてドパミンの分泌を促す。非喫煙者ではこの受容体にはアセチルコリンが作用するが、ニコチンはアセチルコリンに比べて親和性が強く、かつ代謝されるまでの時間が長いため、喫煙者ではドパミンの過剰な分泌が引き起こされる。これが報酬感につながり、薬物を反復摂取する行動につながると考えられている。
 このほか、ニコチンはノルアドレナリンやセロトニンなどドパミン以外の脳内の多くの神経伝達物質の分泌にも関わっていることが明らかになっている(文献10)。 これらの神経伝達物質は、脳の覚醒、気分の調整、記銘力向上、食欲抑制などの重要な脳機能に関係している。



引用文献
7) 中村正和: 喫煙. 綜合臨牀, 57(5): 1599-1605, 2008.
8) Action on Smoking and Health. VARENICLINE - Guidance for health professionals on a new prescription-only stop smoking medication. London: ASH, 2006.
9) Balfour DJK. The Neurobiology of Tobacco Dependence. Respiration,69:7-11, 2002.
10)Benowitz NL. Neurobiology of Nicotine Addiction: Implications for Smoking Cessation Treatment. American J Med, 121(4A): S3-S10, 2008.


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