4.禁煙による心血管疾患・脳血管疾患への効果
(1)心血管疾患への効果
 禁煙後年数と冠動脈イベント(心筋梗塞、冠動脈疾患)による死亡の関連について非喫煙者を対象とした症例対照研究(文献7)(図表5)が実施され、その結果、禁煙後、冠動脈イベントによる死亡のリスクは経時的に低下し、4〜6年後には非喫煙者と同レベルまで低下したことが示されている。



 冠動脈疾患発症後2年以上、死亡率を調査し、発症後の喫煙状況について前向きコホート調査した文献が調査され、665文献から抽出された20文献についてメタアナリシスした結果 (図表6)、冠動脈疾患を発症後も喫煙を継続していた患者に比べて、禁煙した患者では死亡リスクが36%も低下していることが明らかになっている(文献8)。



 また、急性心筋梗塞発症後患者においても禁煙が有効であることは日本のデータでも明らかになった(図表7)。 OACIS (Osaka Acute Coronary Insufficiency Study)に登録され、急性心筋梗塞発症時に喫煙をしていた患者を対象として発症後禁煙実施の有無と生存率を比較したところ、 禁煙をした患者では長期死亡率が3.0%であったのに対し、喫煙を継続した患者では5.2%と差がみられ、また、Kaplan-Meier生存曲線においても有意な差がみられた(Log-rank p=0.032)(文献9)。

 循環器疾患については、受動喫煙を避ける効果についても、明らかな結果が出ている。最近、公共の場、職場の喫煙を法的に規制し、全面的受動喫煙防止区域を設定することによって、ごく短期間に急性心筋梗塞等の心臓発作による入院の減少効果があらわれることが世界各地から報告されている。スコットランドでは2006年3月31日から公共の場の禁煙法が施行され、その健康面への効果として、喫煙状況別に禁煙法施行前後の急性冠症候群の入院数を比較した結果、全面禁煙法で受動喫煙への曝露がなくなったことによる急性冠症候群入院減少のうち67%は非喫煙者+禁煙者の発症の減少であり、喫煙曝露を防ぐことによって非喫煙者に急性冠症候群予防効果があることが示されている。喫煙者の急性冠症候群発症の減少にも同様に寄与していた(文献10)。
(注)『喫煙の健康影響 5.誤用に注意を要するデータ (3)受動喫煙防止対策の効果の評価』の記述も参照のこと。
 図表8に禁煙後の虚血性心疾患のリスクの低下についてIARC Handbook(文献6)のまとめを示す。



 喫煙者は禁煙者に比べて腹部大動脈瘤罹患リスクが高い。コホート研究において、腹部大動脈瘤による死亡は非喫煙者に比べると喫煙者、禁煙者では高いが、喫煙者に比べると禁煙者は有意に低かったことが明らかになっている(文献6)。末梢血管疾患においても、同様な禁煙の効果が明らかにされている(文献6)。


引用文献
6) IARC 2007. IARC Handbooks of Cancer Prevention, Tobacco control, volume11: Reversal of risk after quitting smoking, Lyon, France
7) Dobson AJ, Alexander HM, Heller RF, et al. How soon after quitting smoking does risk of heart attack decline? J Clin Epidemiol. 1991; 44(11): 1247-53
8) Critchley JA, Capewell S. Mortality risk reduction associated with smoking cessation in patients with coronary heart disease: a systematic review JAMA 2003; 290(1): 86-97
9) Kinjo K, Sato H, Sakata Y, et al. Impact of smoking status on long-term mortality in patients with acute myocardial infarction. Circ J. 2005; 69: 7-12
10) Pell JP, Haw S, Cobbe S, et al. Smoke-free legislation and hospitalizations for acute coronary syndrome. N Engl J Med 2008; 359(5): 482 - 91

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