3.禁煙による呼吸機能の改善、呼吸器疾患への効果
 日本で行われた禁煙による呼吸機能の改善の縦断的研究については1.喫煙の健康影響の項でふれたが、この項ではCOPDに対する禁煙の効果について、軽度の閉塞性障害を有する喫煙者を対象としたランダム比較対照試験Lung Health Study(文献4) のデータを示す(図表3)。禁煙が1秒量に与える影響について、5年間の無作為化試験が行われた結果、禁煙継続者では1年以内に1秒量が改善し、呼吸機能の悪化は緩やかとなった。ただし、再喫煙すると、一時は改善がみられた1秒量の再悪化がみられた。これに対して喫煙を続けた人では1秒量の低下は大きく(1秒量の低下:62mL/年)、禁煙者(同:31mL/年)の約2倍低下したが、禁煙すると直ちに呼吸機能の回復が認められている。この後11年まで追跡調査された結果(文献5)、禁煙者と喫煙者の1秒量の差はさらに明らかになった。


 また、禁煙は上記の呼吸機能の改善や低下の軽減のみでなく、咳や痰などの自覚症状も軽減する。咳や痰は禁煙すると気管支線毛上皮の修復により一時的に増加することもあるが、徐々に減少し、完全に消失する例も多い。
 呼吸機能や症状に関する禁煙の効果は短期にあらわれるが、COPDによる死亡率や罹病率に関して禁煙の効果が明らかになるには、長期を要する。図表4に禁煙後のCOPDのリスクの低下についてIARC Handbook(文献6)のまとめを示す。



引用文献
4)Scanlon PD, Connett JE, Waller LA, et al. Smoking cessation and lung function in mid-to-moderate chronic obstructive pulmonary diseases. The Lung Health Study. Am J Respir Crit Care Med.2000; 161: 381
5)Anthonisen NR, Connett JE, Murray RP. Smoking and lung function of Lung Health Study participants after 11 years. Am J Respir Crit Care Med. 166: 675-679; 2002
6) IARC 2007. IARC Handbooks of Cancer Prevention, Tobacco control, volume11: Reversal of risk after quitting smoking, Lyon, France

前へ 1 2 3 4 5 次へ 3/11
ページトップへ戻る