V.禁煙支援の実際−短時間支援(ABR方式)

 ここでは、短時間支援のABR方式についてA(Ask)、B(Brief advice)、R(Refer)の順に解説します。B(Brief advice)とR(Refer)では、ケースを用いた支援例の動画を用いて具合的に学習します。


 まず、短時間支援のABR方式のA(Ask)にあたる「喫煙状況の把握」の具体的方法について解説します。
 問診票を用いて喫煙状況や保険による禁煙治療の患者要件を満たしているかどうかを確認します。
Q1からQ3は、喫煙者を把握するための標準的問診項目です。Q4からQ7は、健康保険で禁煙治療を受けるための条件確認の項目です。禁煙経験(Q8)や禁煙の自信(Q9)についても把握しておくと、より個別化した禁煙の支援が可能となります。


図表3.禁煙支援に関する問診票

●Q1喫煙者の把握
 喫煙者を特定するための質問項目です。喫煙していると回答した全ての人に次のステップで示す短時間の禁煙アドバイスを行いましょう。また、禁煙していると回答した人には、禁煙していることを賞賛し、禁煙を継続するよう伝えましょう。なお、禁煙して1年以内の人に対しては、再喫煙防止のためのフォローアップを行いましょう

●Q2,3受動喫煙の曝露状況の把握
受動喫煙に関する曝露状況を調べるための質問項目です。職場や家庭におけるたばこの煙の曝露状況を把握します。前述の「U.受動喫煙に関する情報提供」を参考に受診者全員に受動喫煙に関する情報提供を行いましょう。

●Q4:1日の喫煙本数
 紙巻たばこ以外に加熱式たばこや電子たばこを使っている場合は、以下の方法で使用量を把握します。加熱式たばこのアイコス、グローを吸っている場合は、カートリッジの本数を、プルームテックを吸っている場合はカプセルの個数を回答してもらいます。電子たばこについては、喫煙量を把握する方法が確定していませんが、ここでは吸って吐いてを繰り返す 10 分程度のひとまとまりの行為を 1 回とみなして 1 日何回吸っているかをたずねて記入してください。

●Q4,5,7,8:保険による禁煙治療の受診条件の確認
健康保険による禁煙治療を受けるためには、下記の3つの条件を全て満たす必要があります。
@35歳以上のものについては、1日喫煙本数 × 喫煙年数 が200以上であること
Aいますぐに禁煙したいと考えており、禁煙治療を受けることを文書により同意していること
BTDS(Tobacco Dependence Screener)のスクリーニングテストで5点以上のニコチン依存症と診断されていること

 条件@は、Q4とQ5の回答結果から計算します。たとえば、喫煙本数が1日10本で30年間喫煙している人は、10×30=300となり、200を超えているので条件を満たしていることになります。
 なお、加熱式たばこを喫煙する場合の喫煙本数の算定は、種々の形状があることから、以下のように行います。
 ・タバコ葉を含むスティックを直接加熱するタイプ…スティック1本を紙巻タバコ1本として換算
 ・タバコ葉の入ったカプセルやポッドに気体を通過させるタイプ…1箱を紙巻タバコ20本として換算
 〈例〉21歳から30歳まで紙巻タバコ喫煙1日15本、31歳から35歳まで紙巻タバコ喫煙1日5本に加え加熱式タバコカプセルタイプ(1箱5カプセル入り)1日2カプセルの場合、ブリンクマン指数の算定は(15本×10年)+(5本×5年)+(20本×2/5箱×5年)=215 となる。
 条件Aは、Q7の回答結果から確認します。Q7の「直ちに(1ヵ月以内に)禁煙しようと考えている」に回答していること(準備期の喫煙者)が条件になります。
 条件Bは、Q8のTDSのスクリーニングテストにおいて、10項目の質問のうち、「はい」と回答した項目が5項目以上あれば、ニコチン依存症と診断され、条件を満たしていることになります。TDSは、日本人を対象に信頼性と妥当性の検討がなされており、WHOの統合国際診断面接(WHO-CIDI)を用いたICD-10の診断結果をgold standardとした場合のTDSの感度は95%、特異度は81%と報告されています。


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