本教材「健診等の場での禁煙支援(カウンセリング学習)」は、健診等の保健事業の場での禁煙支援の推進を図るため、厚生労働科学研究班での成果等を活用して2011年にeラーニング教材として開発しました。その後、厚生労働省の依頼を受けて本教材を改変し、禁煙支援マニュアル(第2版)を作成しました。両者の内容が類似しているのはそのためです。禁煙支援マニュアルのその後の改訂内容についても、この教材に反映しています。
T.健診や保健事業での禁煙支援の取り組み方
健診や保健事業の場での禁煙支援は、メタボリックシンドロームの有無やリスクの大小に関わらず、全ての喫煙者を対象として行うことを原則とします。
特定健診やがん検診の場などの機会を捉えて、禁煙支援の時間が確保できない場合は「短時間支援」、特定保健指導や事後指導の場など禁煙支援の時間が確保できる場合は「標準的支援」を行います。短時間支援と標準的支援の流れを図表1に示します。
短時間支援は、「ABR方式」で個別面接の形式で実施します。A(Ask)では、問診票を用いて喫煙状況を把握します。B(Brief advice)では、喫煙者全員を対象に禁煙の重要性を高めるアドバイスと禁煙のための解決策の提案を行います。R(Refer)では、準備期(1ヵ月以内に禁煙したいと思っている)の喫煙者を対象に、健康保険で受けられる禁煙治療のための医療機関を紹介します。さらに可能であれば、禁煙外来に積極的につなげるために、その場で禁煙外来の予約を取ります。
標準的支援は、「ABC方式」で個別面接と電話等によるフォローアップの組合せで実施します。A(Ask)とB(Brief advice)の内容は、短時間支援と同様です。C(Cessation support)では、準備期の喫煙者を対象に、@禁煙開始日の設定、A禁煙実行のための問題解決カウンセリング(困難な状況をあらかじめ予想し、その解決策を一緒に検討する)、B禁煙治療のための医療機関等の紹介、を行います。禁煙開始日を設定した喫煙者には、初回面接後に禁煙実行・継続を支援するための電話フォローアップを行います。電話フォローアップを行う時期の目安は、初回の個別面接から2週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、6ヵ月後です。フォローアップでは、@喫煙状況とその後の経過の確認、A禁煙継続のための問題解決カウンセリングを行います。
短時間支援と標準的支援の特徴を図表2に整理しました。どのくらい時間が確保できるかによって、いずれの方式を採用するかを決めるとよいでしょう。
第4期の特定健診・特定保健指導において、積極的支援の実績評価にアウトカム評価が導入されました。実績評価時に、腹囲2cm以上かつ体重2kg以上の減少に達していない場合においても、 喫煙習慣の改善(禁煙)を含む生活習慣病予防につながる行動変容もアウトカム評価として用いることが可能になりました。この場合、初回面接等で具体的かつ実践可能な行動目標を設定した上で、 実績評価において一定の要件(実績評価時に生活習慣の改善が2か月以上持続、支援ポイントが180p以上など)を満たせば特定保健指導は終了となります。なお、この場合であっても、腹囲及び体重の目標設定や評価は必要です。動機付け支援については、初回面接と実績評価が規定どおり実施されていれば、特定保健指導の終了となります。特定保健指導の初回面接において、禁煙を先送りしないことの必要性を対象者に伝え、対象者本人が希望すれば、禁煙などの生活習慣改善を目標とした特定保健指導を実施することが可能です。なお、 この場合であっても、腹囲及び体重の目標設定や評価が必要であることに留意する。
U.受動喫煙に関する情報提供
禁煙支援に加えて、喫煙状況に関わらず、受診者全員に対して受動喫煙に関する情報提供を行います。前述した禁煙の短時間支援と同様、多くの受診者に情報提供ができるよう、健診当日に行うことを原則とします。情報提供は、 (1)受動喫煙に関する健康影響の説明と(2)受動喫煙を避けるためのアドバイス、を行います。図表3に受動喫煙に関する情報提供の流れと内容を示します。
(1)受動喫煙に関する健康影響の説明
わが国では、受動喫煙により脳卒中、虚血性心疾患、肺がん、乳幼児突然死症候群(SIDS)の病気で2014年現在、年間1万5千人が死亡していると推計されています。
2016年の厚生労働省の検討会報告書によると、受動喫煙との関連が「確実」と判定された病気や症状として脳卒中、虚血性心疾患、肺がん、乳幼児突然死症候群(SIDS)、臭気・鼻への刺激感、喘息の既往が報告されています。
受動喫煙との関連が「可能性あり」と判定された病気としては、大人では乳がん、鼻腔・副鼻腔がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息など、妊婦では低出生体重や胎児の発育遅延、小児では喘息の発症や重症化、中耳疾患、う蝕があります。
加熱式たばこの使用による周囲への長期影響は明らかでありません。しかし、加熱式たばこの主流エアロゾルや使用者の呼気中のエアロゾルに発がん物質をはじめ多くの種類の有害物質が含まれていることが報告されています。
(2)受動喫煙を避けるためのアドバイス
家庭や職場で受動喫煙の曝露を受けている非喫煙者に対しては、それを改善するために、家庭や職場で相談するように伝えましょう。2020年4月に全面施行された改正健康増進法では、受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の類型に応じ、その利用者に対して、一定の場所以外の喫煙を禁止することが定められています。
学校、児童福祉施設、病院、医療機関、行政機関の庁舎など(第一種施設)は、子どもや患者が利用する施設のため原則敷地内禁煙と定められました。また、事務所、工場、ホテル、旅館、飲食店、鉄道など(第二種施設)は原則屋内禁煙となっています。第二種施設の屋内で喫煙を認める場合は、経過措置の対象となった小規模飲食店を除き、一定の要件を満たした喫煙専用室を設置する必要があります。
加熱式たばこを屋内で使用する家庭では、同居する家族の尿からニコチンの代謝物が検出され、受動喫煙を受けていることが明らかになっています。たばこの煙にさらされることについては安全なレベルがないことから、加熱式たばこ使用者に対しても、受動喫煙によって周囲に危害を及ぼす可能性があることを伝え、原則屋外で喫煙するように呼びかけましょう。
受動喫煙を防ぐためには、社会として対策を進めることが重要ですが、個人としては他人にたばこの煙を吸わせないように十分に注意しましょう。自分の吸っているたばこが大切な家族や友人、同僚を傷つけているかもしれないことを伝え、喫煙者には禁煙を勧めます。それができない場合は、受動喫煙を防ぐために、原則屋外で喫煙するよう呼びかけることが必要です。
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